Good by you

「別れたい?」

 女が、つぶやいた。夜更けのベッドの上、まだ情事の名残が漂う。

「なんだい?」

 男が応える。物憂げに、宙を見上げながら。

「唐突だな。誰と誰が別れるっていうんだ?」

「あなたとわたしが、よ。もちろん」

「きみはどうなんだ?」

「……そうね。どうしようかしら」

「そっちが別れたいなら、おれとしてはあきらめるしかないがね」

「いいわね、勝手で」

「勝手? そりゃこっちのセリフだよ。言い出したのは、きみなんだからな」

 わずかな沈黙。

「あなたがわたしのこと、どう思っているか、当ててみましょうか」

「なんだい」

「恋人ほど面倒じゃない。商売女より安上がり」

「……それで?」

「それだけよ。安心して。結婚しようとか、お金が欲しいなんていわないわ」

「なんか、勘違いしてないか」

 呆れたように男はいう。

「愛しているよ。きみは素敵だ」

「上手ね。女の扱いが、ほんとに上手」

「そんなことはないさ」

「あの娘にも、そういってるんでしょ?」

「……どの娘だって?」

「とぼけないでよ。あの、髪の長い娘」

「あれは……。なんでもないよ。後輩だから、面倒見てるんじゃないか」

「見ていればわかるわ。あなたの考えてることぐらい」

「誤解だよ」

「どっちでもいいわ」

 女は起き上がり、枕元のタバコに火をつけた。

「出ていって。まだ、タクシーは拾えるはずよ」

 男は黙ったまま、ゆっくりと服を身に着けた。

 玄関で靴を履こうとして、もう一度振り返る。

「なあ。考えなおす気は……」

「出ていって!」

 肩をすくめて、男はドアを開けた。

 うつ向いたまま、女はしばらくじっとしていた。

 くわえたままのタバコから、冷めきって長くなった灰が布団の上に落ちるころ。

 部屋に、忍び泣きの気配が広がっていった。

91/09/02,相生浩史

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