Good for you or me.

「はい……もしもし? うん、わたしよ。

 うん。生きてる。……やだ。生きてるってば。なにを心配しているの。

 ――なんで、あなたが心配するの。

 これぐらいで死ぬような女だと思ってたの? 

 あなたに振られたぐらいで死んでたら、尻尾が九本あっても足りゃしないわ。

 ――なに言ってんの。あなたからでしょ? 

 白ばっくれてんじゃ――あ。ううん、いい。ごめん。

 いいよ。じゃ、あたしからってことにしといてあげる。

 どっちだっていいじゃない。結果は同じなんだし、あたしは気にしないわよ。

 なに黙っちゃってんのよ。おっかしいの。

 ――謝ってどうすんの。謝らないで。

 謝るぐらいなら……黙ってたほうがましよ、あんたは。

 かっこいい男でいなさいよ。ずっと。あたしが、誇りに思うぐらい。

 そんなにいい男を振ったって、あたしが誇りに思えるぐらい。

 そうでなかったら、あたし――いいや。これも、いい。忘れて。

 なによ。そういうのは、未練がましいっていうの。

 いい男ってのはね。そこで知らん顔して、じゃあな、って電話切るのよ。

 切ってみなさいよ。切れない? 

 ――弱虫。あんた、弱虫ね。ほら、切ってごらん。切りなさいよ。

 ……あーあ、バカね。切れば、それで終わりにできるのに。

 おーやだ、馬鹿な男。さっさと振っちゃってよかったわぁ。

 ……だからバカだって言ってるんじゃない。考えなさいよ、自分で。

 そんなこともわかんないやつだから振ったのよ。あたりまえでしょ。

 しつこいわね。あたしから振ったって言ってんじゃない。

 ……いいわよ、もう。なにもかも、終わりになったんだから。

 あなたはあなたで、好きなように人生送ればそれでいいじゃない。

 それが、お望みだったんでしょうし。

 あたしはあたしで、好きなようにするから。

 え? ……ないしょ。教えてやんない。

 せいぜい、あたしを見て悔しがってりゃいいのよ。

 じゃあ、ね。そろそろ切るわよ。もう、頭ぼんやりしてきたし。

 あ、バッテリーが切れそう。これ、コードレスホンだから。

 よかったわね、昔の黒電話じゃなくて。

 ――あれだと、ベルが鳴っただけで火花が散って、ガスに火がつくことあるから。

 遅いわよ。そこからタクシー飛ばしたって、もう間に合わないでしょ。

 遅いの。なにもかも。

 じゃ。ほんとに切るわ。

 ――さよなら」

'95/06/08
相生浩史

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