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苦い妙薬

 セックスなんか、興味ない。わたしのアレに男のアレを挿入するなんて、考えるだけで気持ち悪い。
 でも。
 フェラチオって、どんなんだろう。さいきん、興味がわいてきてしかたない。
 口に、入るんだよね。太いのかな。するっ、て、挿入ってくるのかな。それとも、苦しいのかな。喉の奥にまで、届くのかな。
 考えていたら、むずむずしてきた。手が自然に、下に向かう。お布団の中、パジャマのボトムとショーツの中に、手を差しこむ。
 デリケートな部分に、触れる。
 まだアンダーヘアのないところを。
 押しつける。
 つまむ。
 こする。
 左手は、パジャマの上から、少しふくらんできたチクビに当たる。
 押しつける。
 つまむ。
 こする。
 呼吸が、荒くなる。
 もっと。
 もうちょっと、はげしく。
 じれったい。
 身体を、ひねる。
 ずらす。
 お布団の中で、裸になる。
 誰も見ているはずがないのに、誰かに見られそうな気分。
 敏感な部分に、余すところなく触れる。
 敏感な部分、もっと、ないかな。
 唇を、ぱくぱくしてみる。舌先で、舐めてみる。
 キモチいい。
 わたし、おクチでも、キモチいい。
 ここに、太いのが、来たら。
 ぐしゅぐしゅ、って、されたら。
 フェラチオって、きっと、キモチいい。
 ぐしゅぐしゅ、ってされたら、キモチいい。
 アレって、どんな味がするんだろう。
 きっと、おいしい。
 だって、前に読んだマンガで、「おいしい」って言ってたもん。
 フェラチオ、してみたい。
 セックスなんか、したくない。
 フェラチオ、したい。
 五年生のわたしに、フェラチオしてくれる人、いるかな。
 でもそのときになったら、拒否っちゃうかもしれないな。
 でも今は、してみたい。
 チクビをつまみながら、アレをこすりながら、唇を舐めながら、わたしは考える。
 キモチいい。
 フェラチオ。
 キモチいい。
 
 翌朝。
 お母さんに起こされたとき、わたしは、ぼんやりしていた。
「起きなさい。あんた、なんで裸で寝てるのっ」
「……えと。なんか、暑くて」
「暑い? あらほんと、ちょっと、熱があるわね」
 風邪、引いちゃった。
 おなにーしてて、そのまま寝ちゃって、風邪、引いたんだ。
 ばかだ、わたし。
「しょうがないわね。今日は学校休んで。九時になったらお医者さんへ行くわよ」
 お医者さんは、小児科だ。
 わたしはもう大きいから、普通の内科のお医者さんがいい。
 でもそう言っても、卒業までは小児科にしか連れて行ってくれない。
 ちっちゃい子や赤ちゃんといっしょに順番待ちするのは恥ずかしいんだけど、今日はたまたま、お医者はがらがらだった。
「ひとりで大丈夫だから、お母さんは待合室にいて」
「はいはい」
 ひとりで診察室に入るのは、初めてだ。
 わたしはすこし緊張しながら、丸椅子に座った。
 今日の先生は、二代目の若先生だった。まだ大学を出たばかりの、優しそうな男の人だ。
「どうしたのかな」
「あの、熱があって。風邪、みたいで」
 おなにーのことは、もちろん言わなかった。
「そうか。ええと、二〇〇四年五月二十一日生まれ、十一歳ね。熱がある、と」
 カルテに書き込みながら、先生は目を上げずに言った。
「じゃ、服をめくって、胸出して」
 わたしは、体をこわばらせた。
 若い、男の人に、胸を。
 ううん。
 お医者さんなんだから、当然なんだ。
 そう、自分に言い聞かせて、パジャマとTシャツを、おずおずとめくる。
「ん? ブラジャーしてるの。それも取って」
 ファーストブラを、持ち上げると、すこしだけ、ふくらんだ、おっぱいと、その頂点で、固まった、チクビが現れる。
 ゆうべのことを、思い出す。
 ぜったいに、誰にも見られないと思って、裸のチクビをいじっていたわたし。
 その十時間後に、本当に、若い男に、チクビを見られてる。
 どきどきする。
 はあはあする。
 からだが、ふるえる。
 先生は興味なさそうに、わたしの胸をちらりと見てから、聴診器を耳にはめた。
 冷たい器械の先端が、わたしのみぞおちに当たる。それから小さなおっぱいを取り巻くように動いては触れ、最後に、チクビに触れた。
「はうんっ」
 思わず、声が出た。
「声出さないで。ちょっと、脈が速いね」
 わたしのどきどきが、ぜんぶ、聴かれてる。
「まあ、熱のせいでしょう。解熱剤を打って、薬出しておきますから、あとは安静にして」
「はい。あ、注射ですか」
「うん。下を脱いで、そこに横になって」
 この医院では、腕ではなく、おしりの静脈に注射を打つ。
 注射針が見えないから、小さい子もあまり騒がない。
 理屈はわかるけど、もうわたしは、小さい子じゃない。
「あの。腕に、お願いします。わたし、小さくないし。注射怖くないですから」
「うん、まあ、決まりだから。腕に打つと痛いよ? おしりの方が痛くない」
「我慢しますから。あの」
「騒いでる間に、脱ぎなさい」
 怖い顔で、命令された。
 わたしは、泣きそうな気持ちで、パジャマとショーツに手を掛けた。
 前をできるだけ隠すようにしながら、それだけおしりを突き出すような格好で、診察台にうつぶせになる。
「そんなに突き出さなくていいから。体をまっすぐにして、楽にして」
 先生の手が、わたしのおしりに触れた。
 腰から太腿までの間を、何度も往復する。
 すると不思議に、全身の力が抜けるような感覚になった。
「はい、いい子だ。すぐ終わるからね」
 おしりの注射は、何度もされているけど、ほんとに痛くない。
 いつ針が刺さって抜かれたのかわからないまま、注射は終わった。
「はい、いいですよ。あとは薬だけど」
「はい」
「小さい子でも飲める甘いシロップと、すこし苦いけど効き目の強い水薬がある。どっちにするかね」
「あの。わたし、平気です。水薬の方で」
「そうか。試しに、飲んでみるかい?」
 白い液体の瓶を渡されて、すこしためらったけど、わたしは一息に飲んでみた。
「いやぁ。なにこれ、にがぁい」
 思わず、言ってしまう。
 ゆがめたわたしの顔を見ながら、若先生は、もじもじと身をくねらせた。
「くそっ、たまんねえツラしやがって」
 彼はあえぎながら、腰を突き出した。
 白衣の下のスラックスの前が、持ち上がっている。
 その意味は、わたしにもわかった。
「ブラなんかしてやがるからがっかりしたが、胸は適正サイズだし下はつるまんだし。胸やケツに触るだけで、こっちは爆発寸前だ」
 むきだしのままだった、わたしのおしりと太腿に手が触れ、股間に後ろから手のひらが割り込んできた。
 そのすぐ上は。
「やっ。お願い、先生、そこはだめ」
「なにをっ。俺はガキまんこが好きで小児科やってるんだ。指ぐらい挿れさせろ、小さい子じゃあるまいし」
「それだけは。あ、あの、他のことならしますから」
「他って」
「ふぇ、ふぇらちお、とか」
「知ってるのか」
「本で読んで。やったことはないです」
 男は一瞬考えて、すぐに命じた。
「それでいい。すぐにやってもらわなきゃ、どうかなっちまう」
 こんなかたちで、フェラチオ初体験するとは思わなかった。
 わたしは、多少熱のあるぼんやりした頭で起き上がった。
 服を着直そうとしたら、また命じられた。
「そのままだ。まんことケツと胸と、全部見せたまま、そこにしゃがむんだ」
 死ぬほど羞ずかしかったけど、いまさら逆らえない。
 恥ずかしい部分を丸見えにしてしゃがんだわたしの目の前で、先生がチャックを開き、中から赤黒い肉塊を取り出した。
 こんなの。
 無理。
 思った瞬間、わたしの口に、その細長い肉塊が押し込まれてきた。
 それがどんなものなのか、目で確認する時間はなかった。
 ただ、硬直していて、表面はつるつるで、思ったより複雑な形をしているのが、口の中の感触でわかった。
「ふはぁ。十一歳の口だ。やっぱたまんねえ。八歳以上にしゃぶらせるのは久しぶりだな」
 わたしは、喋れない。
 硬い竿が唇を出入りし、舌と頬の内側と歯茎と歯を、ふくれあがったやや柔らかい勃起が掻き回す。
「もっと舌を使え。この奥歯は乳歯だな。その奥は歯茎が直接触れるぞ。たまんねえ」
 ぐしゃぐしゃにされながら、やっぱり、ほんの少しの快感があることにわたしは気づいて、驚いた。
 無意識に、両手がチクビと股間に触れ、いじっていた。
「もう出る。出すぞ、出してやるから、全部飲み込めよ」
 男が言うのと同時に、口の中に粘っこいものが溢れた。
 喉を開いて、わたしは必死になって、それを飲み込んだ。
 まずかった。
 水薬より苦くて、えぐくて、臭くて、まずかった。
 でも、達成感があった。
 これで、十一歳のわたしもフェラチオをやり遂げたのだという、満足感があった。
 この感情が味付けになって、おいしいと感じるんだろうな、ということまでは、わかった。
「飲んだか。口開けて見せろ。よし、じゃあ今度はまんこ舐めてやるから、診察台に上がれ。なんだ、もうびしょびしょじゃないか――」
「先生、次の患者さんです」
 そのとき。カーテンの外で看護師さんの声がした。
「ち。いいか、このことは喋るなよ。喋ったら」
「わかってます。ぜったい、しゃべりません」
「また明日来い。十時過ぎなら空いてるはずだから」
「はい」
「今度は……セックスってわかるな」
「――はい」
 
 家に帰って、苦い薬を飲んで寝たら、風邪はすっかり治ってしまった。
 でもわたしは、まだ風邪を引いているふりを続けた。
 セックスってどんなだろう。
 すごく、興味がわいている。

《完》

2015/07/02執筆
安東熱志

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