いつものように、首輪を嵌める。

 いつものように、服を脱ぐ。

 いつものように、両手を縛られる。

 いつものように。

「え、っと……。

 『見てください』」

 大きく脚を開いて、恥ずかしい部分が丸見えになるようなポーズ。

「『絵梨佳えりかのおまんこはもう、びしょびしょです……』」

 それから。

「『先生に、舐めてほしいの……』」

「うん、いいよ。――絵梨佳は、いやらしい子だね」

「違っ……『そんなこと、ないですぅ』」

「どうかな? ほら」

 わたしの脚の間に、先生の髪の匂いが割り込んでくる。

「やっ……!」

 気持ちいい。先生の舌使いは気持ちいい。

 でも。

「だいぶヘアーが伸びてきたね。剃ってあげよう」

「……」

 先生は、わたしを、どうしたいの――?

「ほら、きれいになった。可愛いよ」

「あ……『ありがとうございます』」

「さて。それじゃ」

「あの。先生、ゴムを」

「ん? うん……。今日は、やばいのか?」

「いえ。でも。あの、『つけさせてください』」

「んー……。しょうがないな。

 ほら。丁寧に、な」

 避妊具を口にくわえて、硬くなった先生の陰茎に当てて、奥までかぶせる。

 こうしないと、絶対に、つけてくれないから。

「うん。じゃ、いくよ」

「『来て、せんせい……』」

 気持ちいい。

 セックスは、気持ちいい。

 これだけは、本当だ。

 でも、これ以外は。

 たぶん全部、嘘。

 

「先生は……」

「ん?」

「先生は、わたしを、好きですか?」

 タバコを喫っていた手をしばらく止めて、先生は考え込んだ。

「愛しているよ。もちろん」

 わたしを……?

 それとも、教え子の女子高生を?

 でも、その質問はできなかった。

「うれしいです」

 わたしも、嘘つきだ。

 

「絵梨佳ちゃん?」

 帰り道。

 誰にも送ってもらえない、帰り道。

 どこかで見た顔だ、と思って見つめていた男の子が、不意に声をかけてきた。

「絵梨佳ちゃん、だよね?」

ゆうくん? ひさしぶり。びっくりしたあ」

 一歳下の、近所の男の子。わたしが小学校を卒業してからだから、話をするのは四年ぶりぐらいだ。

「よかった。ずいぶん、雰囲気変わってたから、最初、別の人かと思った。絵梨佳――さんで、よかった」

「絵梨佳ちゃん、でいいよ。優くんは――あんまり変わってないよね」

「え。そうかな……」

 なにも考えずに、わたしは嘘をつく。

 なんの得にもならないのに、嘘をつく。

 覚えていたのは、ランドセルを背負ったやんちゃな小学生の優くんだったのに。

 顔は変わっていないけれど、わたしより背が高くなっている。下を向いてぼそぼそと喋る声も、びっくりするほど大人の声だ。

 詰襟に五分刈りの優くんは、まるっきり、男子中学生になっている。

 

 どこかの垣根に、白い花が咲いていた。薄暗いのに、はっきり見える。

 もう暗くなった道を同じ方向に歩きながら、わたしたちは、たいして意味のないことを、ぼつり、ぽつりと話す。

「でもほんと、ひさしぶり。ちょっと学校が遠いから、近所の子には会えなくなっちゃって」

 会えないんじゃなくて、会わないだけなのに。

「うん。毎日、こんな、遅いの?」

「そっちこそ、なんで子供がこんな遅くに出歩いてるの、もお」

 わざと、“元気なお姉さん”っぽく言ってみた。

「塾の帰りだよ。今度、高校受験だし」

「え。そうか、もうそんななんだ」

 ちょっと、びっくりした。

 頭ではわかっていても、感情で理解できない。

「絵梨佳ちゃん、中高一貫だから、いいよな」

「どこ狙ってるの?」

「いちおう、A高」

「すごいじゃん」

「まだ、受かるかどうか、わかんないから」

「がんばんなよ。あたしなんかバカ校に入っちゃったから、まわりにろくなのいないよ。

 ……教師とかも」

「でも。……絵梨佳ちゃんは、キレイになったから、いいじゃん」

 綺麗になって。

 目立って。

 ロリコン教師に目をつけられて。

「別に。ちっともよくない」

 強い口調で言ったら、優くんはちょっと驚いたようにわたしを見た。

 なぜか急に、変な気持ちになる。

 なにかを、壊したい気持ち。

 この子を、もっと。

「ちょっと、そこの公園に寄っていこうよ。ゆっくり話そ」

 

「懐かしいでしょ。このへん、かくれんぼの穴場だったよね」

 物陰。暗がり。誰にも見えない。

「うん……」

 狭いところで、わたしに近づいて、優くんがどきどきしてる。

 暗いのに、なぜかそれがわかる。

「わたしのこと、見える?」

「うん? いや、あんまり」

「そう。じゃあ、こんなことしても大丈夫だね」

 ショーツを、足首まで下ろした。

 スカートはそのままだ。

「――」

 息を飲む気配。

「ねえ。スカートめくりとかは、もうしないの?」

「ししし、したことないよ。昔だって、絵梨佳ちゃんには」

「そうだっけ? でも、したいんでしょ? 今も」

 自分で、ゆっくりと、ミニスカートを持ち上げていく。

「ほら。見えちゃうよ。

 見てもいいんだよ。

 しゃがんで。もっと、近づいて」

 いくら暗くても、これだけ近ければ、はっきり見えているはずだ。

「剃ってあるでしょ。優くんに、よく見えるようにだよ」

 また、わたしは、嘘をつく。

 でもこれは、本当のことのような気がする。

「どうする? どうしたい?」

 中学生の男の子に、訊いてみる。

「さ。さわっ……さわっても」

 もちろん、そうだよね。

「――いいよ」

 裸の下半身に、夜風が冷たい。

 でも服を着たままの優くんは、もっと震えている。震えながら、手を伸ばしてくる。

 おそるおそる近づいてきた指が、わたしの柔らかい部分に触れた瞬間、あわてたように引っ込められる。

「それだけ? 他のとこでさわってもいいんだよ」

「他の……」

べろ、とか」

 また。

 また。本当のことを言ってしまう。

「えっ」

「ううん、ごめん」

 いや、やっぱり嘘だ。

「『さわっていいよ』じゃなくて。

 さわってほしい。

 優くんの舌で、舐めてほしい」

 しばらく、彼はなにも言わなかった。

 近所のお姉さんに久しぶりに会ったら、頭のおかしな変質者になっていたんだ。

 警察に通報されるかもしれない。

 親に言われるかもしれない。

 でも。

「おねがい」

 本当のことを言うのは、なんて気持ちいいんだろう。

 本当の自分を。

「っ」

 いきなり、なにかがぶつかってきた。

 柔らかいものが、すごい勢いで、わたしのあそこに。

 優くんの舌が、こそげるように、むしゃぶるように、わたしの敏感な部分を舐めていく。

 焦らせたり、反応を見たり、そんな余裕がまったくない。荒々しい舌使い。

 いきなり逃げ出すのが当然のような状況で。

 優くんが、わたしの。わたしのお願いに、応えてくれた。

 そう思うだけで、軽く逝きかけた。

 

 いきなり膝を崩し腰を落としてしまったあたしを、優くんはびっくりした顔で見ていた。暗がりでもはっきりわかるほど、目を見開いている。

「どうしたの? あっ、ごめん。俺、なにか」

「ううん、いいの。最高だったから、力抜けちゃった」

 まだ余韻が止まらない。

 ここまで来たら、止められない。

 たぶん、優くんだって。

「ねえ。ちょっと、立って。もっとこっちに。そう……」

 地面に座り込んだまま、優くんのベルトが目の高さに来るように呼び寄せる。

「ねえ。どう、だった? わたしのこと、変だと思った?」

「いや、別に……。驚いたけど、別に。嫌じゃあ、なかったし」

「ほんとに? 嘘つかないでね。嘘は、ぜったいに」

「ほんとだよ! いい匂いがした。なんていうか、甘酸っぱくて……」

 優くんがなにか言うたびに、わたしの内部から、どんどんあふれてくるのがわかる。

 もう我慢できずに、わたしはいきなり手を伸ばして、目の前のファスナーを下げた。

 トランクスがもう、テントを張っている。布をかき分けるだけで、硬くなった支柱が飛び出してきて宙空を指した。

 見慣れさせられた先生のものとは、少し形が違う。先っちょだけ顔を覗かせて、あとは柔らかそうな皮に包まれている。

 可愛いと思った。口には出さなかったけど。

「なに……っ」

 言う暇も与えず、ぱくりと咥える。

 いつものように、舌を絡ませながら、唇を輪にして顔を軽く前後に動かす。

 だけど、突っ込んでくるはずの優くんは、飛び退くように身を下げた。

「どうしたの? お返ししてあげるのに」

「いいよっ、そんなの」

 え? 

 怒ってる? 

 なんで? 

 優くんは片膝をついてわたしに顔を近づけ、言った。

「絵梨佳ちゃんがそんなことしなくてもいい。

 俺が――え、絵梨佳の言うように、してやるから」

「……」

 どうしていいか、わからない。

 この場でいきなり、大声で叫びたいような気もする。

 ぎりぎりでそれを我慢して、彼の耳元でそっとささやいた。

「ありがとう――。嬉しい。本当に、うれしい」

 両手を首に回して、思わず唇を近づけた。

 優はためらいもせずに、唇を重ねてくれた。

 軽く舌を触れあわせて、すぐ離す。

 エッチなキスには、したくなかった。

「ねぇ。気づいてる?」

「ん?」

「二人とも、丸出し」

「っ!」

 優くんは、もうとっくに赤くなっていた顔を、さらに耳まで真っ赤にした。

 

「ね? 最後まで」

 だけどなぜかそこで、優は顔を歪めた。

 なんで? 

 さっきの言葉は、やっぱり嘘? 

 身体が動かないような気がした。呼吸ができない。

 凝固しているわたしに気づかないのか、照れくさそうに優は言った。

「したい。絵梨佳と今、すごくやりたい」

「――。じゃあ」

「でも、ごめん。俺、今、コンドーム持ってないし。……責任取れないし」

 わたしはまた、優をぎゅっと抱きしめた。

 なんだ。なぁんだ。

「平気。あたしが持ってるから」

 ポケットのお財布に入れてあったものを取り出す。

 ――先生のお金で買ったものだけど。

 今は、忘れることにする。あとで買い直して返してやる。

「待ってて。つけてあげるから」

 平べったい袋を引き破いたわたしから、優がそれを取り上げた。

 そして自分で着けはじめる。たどたどしい手つきだったけど、しっかりと、できたみたいだ。

「絵梨佳――」

「――優」

 わたしが身体を横たえると、優がのしかかってきた。

 でも、ぜんぜん嫌じゃない。

 大人の男の匂いがしない。

 ただ、汗くさいだけ。嫌な匂いはしない。

 位置がわからず優が戸惑っているのに気づいて、軽く手を添えて導いてあげる。

 先端が軽く分け入ってきたところで手を離すと、優はいったん動きを止めた。

 目と目で見つめ合い、どちらからともなくうなずく。

 次の瞬間。

 かつてなかったほどの勢いで、優がわたしに入りこんできた。

 思わず身がのけぞる。

「あっ。ごめん、痛かった?」

「違う。ぜんぜん。平気」

 壊されてしまいそうな気持ち。

 壊してしまったような、気持ち。

 もういちど、優を抱きしめる。

「あっ」

「……気持ちいいから。もっと」

 なにを言ったのか、覚えているのはそこまでだ。

 たぶん、「もっと」とか「きもちいい」とか、言葉にならない声とか、そんなことを言ってたんだと思う。

 それから、「優」と。

 ひとつだけ、覚えている会話。

「絵梨佳。大好きだった。昔から」

「わたしも。わたしも、大好き。優――」

 なにを言うべきかなんて、ひとつも考えずに。

 ただ、ぜんぶ、ほんとうの言葉で。

2006/07/12 - 2007/03/31
安東熱志

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